憲法押しつけ論のまぼろし
最近読んだ、『憲法「押しつけ」論の幻』(小西豊治著、講談社現代新書)によって、日本国憲法のもとになったアメリカGHQの憲法草案が、じつは在野の日本人グループが起草した憲法草案を大部分採り入れてできたものであることを教えられました。
この日本人グループとは、高野岩三郎、杉森孝次郎、森戸辰男、室伏高信、岩淵辰雄、鈴木安蔵、馬場恒吾という日本の言論界に重きをなしていた7人で、戦後いち早く民間で憲法制定の準備、研究をするために「憲法研究会」をつくり、憲法草案の検討に取り組みました。特に草案の起草に深くかかわったのは鈴木安蔵です。鈴木は憲法制定史の研究者で、明治維新の自由民権運動時代に数多く作られた私的な憲法草案にも通暁していました。その中に起草者不明の、当時としては際立って急進的な「日本国国憲案」があり、鈴木はそれが誰の手になるものか知るために綿密な調査をし、ついに土佐の自由民権運動の指導的理論家、植木枝盛が起草者であることを発見しています。
「憲法研究会」で鈴木安蔵がまとめて起草した憲法草案は「憲法草案要綱」の名のもとに、昭和45年12月26日に時の日本政府に提出され、その直後にGHQで憲法問題を担当していた民政局の手にわたり、英訳されました。そこには日本国の主権は国民にあること、天皇は儀礼的な行事を行う存在であることなどが書かれていて、GHQにとっても驚くような内容でした。その案に関して民政局法規課長で憲法問題の担当者だったラウエル中佐が所見で「民主主義的で、賛成できる」と高く評価しています。
鈴木安蔵が起草した「憲法草案要綱」は、鈴木自身が明治維新の植木枝盛の「日本国国憲案」を研究し、それを参考にして作ったと言っています。それがGHQの草案に生かされ、そしていま私達が持っている日本国憲法の基本をなしているのです。主権在民、基本的人権の尊重、各種自由の保障、罪刑法定主義、地方自治、象徴天皇などを定めた憲法は形の上では当時の日本の支配層にアメリカから押しつけられたものかもしれませんが、その内容は日本の先覚者達がかくあるべしと考えたものを結実させたものと言えましょう。
もっとも私にとっては新知識である、このような憲法制定のいきさつは、一部の人々には常識なのかもしれません。インターネットで植木枝盛や鈴木安蔵を検索して彼らの憲法草案が載っているのを発見しました。興味ある方はお読みになってください。日本国憲法との共通性がよく分かります。ただし、戦争放棄、軍備解体はポツダム宣言にもとづくものなので、9条に相当する条文は日本側の両草案にはありません。
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